Char/Fret To Fret

スペシャルインタビューPART4

インタビュー:尾藤雅哉

 1976年のデビューから45周年という節目を迎えたCharが、16年ぶりとなるニュー・アルバム『Fret to Fret』を9月29日(水)にリリースする。レコーディングには初期3作品と同じく佐藤準(k)、ロバート・ブリル(d)が参加しており、Char自身も「デビューからの3作品に連なる4枚目」と語る注目の1枚に仕上がっている。
 現在進行形の表現者であるCharは、今が最も旬ではないだろうか。エレクトリック・ギターに出会ってから約半世紀にわたり、トップ・ランナーとして自身の表現を追求し続けてきた音楽家の最新の表現についてロング・インタビューを敢行し、その胸の内をじっくりと語ってもらった。

音楽が生まれている瞬間は
バンドが演奏している
時間にしか存在しない

アルバム・タイトルにもなった「Fret to Fret」はいかがですか? この曲はサイケデリックな雰囲気が漂うグルーヴィなロック・ナンバーです。

 これもスタジオでセッションしている時に思いついた曲なんだけど、実はリフレインさせるフレーズを1回ずつ変えているんだよ。やっぱりさ、同じことを続けるからフレーズを間違えてしまうんだよね(笑)。でも、ほんの少しでも違っていると意識して覚えるから間違えなくなる。あとテーマとなるフレーズが変わらないと単なるセッションになってしまうけど、そうやって少しずつ変わっていくことで“曲”になるんだよね。そういう点はディレクションというかセンスというか……ほんの少しの制約を設けて、その中で自由な場所を作って遊ぶことが大切だと思うんだ。それが「Fret to Fret」という曲名にも表われている気がするかな。で、この曲にはひとつ聴きどころがあって。俺のカッティングと準のソロの掛け合いのパートなんだけど……これはもう一回やろうとしても再現できないテイクだったんだよね。さすがに50年近い付き合いだからお互いに相手の気持ちが読めるというか……一発録りのセッションで本当にハマった時は、楽器の演奏が“会話”になるんだよ。同時に喋らない。そうやって譜面も何もないのにも関わらず示し合わせたようにキマったところがあって、その瞬間があったからこそアルバムに入れようってなったし、作品のタイトルにしたいと思ったんだ。やっぱりそれは“バンドでしか生まれない瞬間”だったからね。現代のレコーディングはPro Toolsでいかようにでも編集して曲が作れてしまう。極端に言えば、楽器を弾けなくても、歌が歌えなくても、音源そのものを作ろうと思えば現代のテクノロジーを使えばできちゃうじゃない? でもさっき話したような“楽器による会話”は、パソコンのモニター上でエディットしていく作業の中では絶対に生まれない瞬間なんだよ。もちろんスタジオできっちりと作り込んでいくクラフト・アートという考え方もあるけど、音楽がまさに生まれている瞬間というのは4人で演奏している時間にしか存在しないからさ。やっぱり大きなリズムの裏にある細かいところをみんなで感じられるとグルーヴが始まるんだよ。だからレコーディングでクリックは一切使ってない。使うと支配されちゃうからね。人間ってさ、やっぱり走ったりモタったりするもんなんだよ。もちろん俺も打ち込みで曲を作ったりすることもあるし……デジタルなビートの「GahaGacha」は聴いてみたらおもしろいと思うよ。でも飽きちゃう。まったく違う作品として楽しめるとは思うけどね。

そちらもいつか聴いてみたいです。その次は歪ませたワウ・ギターを全編にフィーチャーした「Mr.Liar」。歌のパートを前半だけにしたのには何か理由があるのですか?

 それ以上歌うことがなかったから(笑)。これは2~3年前に作った曲なんだけど、どこの場所でもさ、息を吐くように嘘をつくやつっているじゃん? でまた嘘の上塗りをしたりしてさ。社会情勢を見ていても、こういうロック・サウンドに乗せて「Hey Mr.Liar!」って全員で叫びたい気持ちだったしね。

「Moving Again」は近年のライブでも披露されてきたファンにもお馴染みのナンバーです。快楽的なグルーヴに飲み込まれていく気持ちよさがありますね。

 還暦になるくらいから演奏してきたんだけど、歌詞はその日に書くというテーマでやってきた曲だね。それを今回のタイミングでちゃんとまとめようと思って。クリームの「I’m so glad」みたいな雰囲気を持っている曲だけど、バースで意識したのはスライ(&ザ・ファミリーストーン)なんだよね。そこはコード進行で冒険したポイントかな。

さて、ここまでアルバムに収録された全曲の解説をしていただきましたが、改めて作品制作を終えて一言お願いします。

 このアルバムを作るのに10年かけたことで……あと2枚作れると思った。やっぱりひとつの作品を完成させるには、たくさん勉強して、いろんなカテゴリの知識を吸収して、さまざまな経験をしないといけないと思った。そういう意味では『天邪鬼 Amano-Jack』以降の10年間で無駄なことは何ひとつなかったね。あとはコロナ禍みたいな思いもよらないことが地球全体で起こっている現在、人は音楽がなくても生きていけるかもしれないけど……人生の傍にはあったほうがいいと思うんだ、絶対に。そういう意味でも今回の作品をぜひ皆さんの傍に置いておいていただけたらうれしいね。デジタルで作っていないだけに聴くたびにいろんな世界を味わえるんじゃないかな。俺も何回も聞いても飽きないしね。

ありがとうございます。最後の質問ですが、12月11日に武道館公演を行なうことも発表されました。どのようなステージにしようと考えていますか?

 わかんない(笑)。俺のことだから……ひょっとしたら次のアルバムの曲をやるかもよ? まぁ普通だったら45周年という節目だし、デビュー作からお馴染みの曲をやって、みたいなことを想像するだろうけど……それを今の俺が表現したいかどうかに尽きるかな。今となっては数少ないライブの機会だからね。別に1時間半ノンストップでセッションだけやってもいいと思うんだよ。ただ……俺にそれをやる勇気があるのか? 1時間半ギターを弾いて観客を納得させられるだけの腕があるのか? そういったことを含めて、Charじゃないとできないことをやりたいと思っている。JL&Cがデビューした“Free Sprit”の時は新曲ばかりだったし、ピンククラウドを解散する時の武道館ライブはほとんどセッションだったからね。……まぁ、楽しみにしててよ(笑)。

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