Char/Fret To Fret

スペシャルインタビューPART3

インタビュー:尾藤雅哉

 1976年のデビューから45周年という節目を迎えたCharが、16年ぶりとなるニュー・アルバム『Fret to Fret』を9月29日(水)にリリースする。レコーディングには初期3作品と同じく佐藤準(k)、ロバート・ブリル(d)が参加しており、Char自身も「デビューからの3作品に連なる4枚目」と語る注目の1枚に仕上がっている。
 現在進行形の表現者であるCharは、今が最も旬ではないだろうか。エレクトリック・ギターに出会ってから約半世紀にわたり、トップ・ランナーとして自身の表現を追求し続けてきた音楽家の最新の表現についてロング・インタビューを敢行し、その胸の内をじっくりと語ってもらった。

ギターには弦が6本しかないけど
それを組み合わせることで
本当にいろんなものに変身できる

「Infant Elephant」はファンキーでサイケデリックなグルーヴを生み出したナンバーです。

 “そういえば最近プログレの曲ってないな”と思って作った曲だね。最初はイエスのクリス・スクワイア(b)をイメージしながらイントロを作ったんだけど……完成したら全然違う世界に行っちゃった(笑)。「Infant Elephant」(仔象)って韻を踏んだ言葉の洒落を思いついて、そこから頭の中で曲の世界が広がっていったんだけど、象の鳴き声だったりアフリカの広大な大陸を思い描きながら低音重視で作り込んでいったかな。

続く「Walking On Air」はアコースティック・ギターのアルペジオが紡ぐ優しい旋律が印象的なナンバーです。

 3~4年くらい前からアコースティックのセッション・ライブなどで披露していた曲なんだけど、これもテンションを入れたCmの響きと開放弦を絡ませたフレーズがキレイだなってところからコード進行を思いついて、頭からつるっと完成した曲だね。この曲のポイントは、なんといっても1番から2番に入るところで“完全に音を止めた”ところ。普通は白玉で伸ばしてしまいがちなんだけど、時間が止まったように“無音”にしたかった。これはすごく日本的な音楽の特徴というか、昔に読んだ何かの本で“西洋の音楽はテンポとカウントがあって始まるけど、日本は無から始まって無で終わる”と書いてあったんだよ。それは一番大きな音を感じさせるためには無音が必要ということで、大音量でなっていた音が一瞬なくすことで聴いている人のビジョンをガラッと変えられるんだよね。これは「Rainbow Shoes」(『Char played With and Without』収録)でもやっているアプローチなんだけど、最も大きな音を聴かせるためにピークであえて“無音”にする。今回「Walking On Air」をLAのミュージシャンと一緒に録音したんだけど、この“無音にする”って意図を伝えるのにすごく苦労したんだよ。絶対に誰かがゴーストノートを入れたり、ちょっとシンバルを鳴らしたりしてさ(苦笑)。聴いている人にとっては気にならないかもしれないけど、そうやってエアポケットのような瞬間を意図的に作っているんだよね。それは長い経験の中で培ってきたものだし、ある種“サウンド・オブ・サイレンス”というテクニックなのかもしれない。

続く「GachaGacha」はフュージョン的なアプローチのロック・ナンバーですね。後半になると表情を変えるので、セッション的な雰囲気で作り上げていったようにも感じました。

 これもスタジオで遊んでいてできちゃった感じかな。後半はまた別の曲なんだけど、思いついたからこの曲に引っ付けちゃった。タイトルからもわかると思うけど、いわゆる英語の“Gatcha”と“ガチャガチャ”という言葉で遊ぼうというのがテーマで。うちの子供もそうだったけど“何が当たるかわからないけど、早く次のガチャを引きたい!”という少年の“ガチャガチャやりたい!”っていうディザイア(欲望)はおもしろいなと思って。それは間奏で狂ったようにソロを弾くパートや「Gacha Gacha Sound of Temptation」という言葉に凝縮されているというか。あと、この曲の“8ビートなんだけど16の感じ”を表現できるというのは……やっぱりロバートのドラムじゃないと出せないグルーヴだよね。

そして「Change」は単音リフとカッティングのコード&レスポンスで展開していくハードロック・ナンバーです。

 このリフは白人と黒人のふたりのギタリストがフレーズを弾き分けているようなイメージで作ったかな。単音フレーズとカッティングでフレットを縦に広く使うから忙しいんだよ(笑)。単音リフは歪んでいるのに、途中に挟み込まれるカッティングはクリーンな感じに聴かせたいから、右手のタッチの強弱を繊細に操らないと表現できないんだよね。ちなみにカッティングはファンク・バンドにおける管楽器のオブリガードみたいなイメージで挟み込んでいたりして、ギターのカッティングとホーンが絡むことで作りだすグルーヴはタワー・オブ・パワーのブルース・コンテから学んだことだったりもする。そこから“管楽器のオブリも含めてギター1本で表現したらどうなるんだろう?”という発想が生まれたんじゃないかな。ギターという楽器には弦が6本しかないけど、それを組み合わせることで本当にいろんなものに変身できる楽器だと思うんだよね。50年以上、毎日ギターを弾いてきて、毎回何かを発見し続けているというのは、そういった奥深いおもしろさがあるからなんじゃないかな。そういう小さな気づきが発展して曲になっていくんだと思う。

PART4へつづく▶︎